「ちょっと驚いた」
こう言うのは、さる巨人OBである。巨人がBクラス4位に沈んだ昨季終盤、旧知の読売関係者からこんな話を聞いたのだという。
■昨オフも水面下でOBが耳を疑う仰天人事
「シーズン終了後、結果的に原辰徳監督(64)の続投が決まった。3年契約の1年目だから既定路線だったとはいえ、Aクラス入りを逃したのは2017年以来5年ぶり。しかも、巨人の歴代監督としては初となる2年連続の負け越しという屈辱で、内部では進退問題がくすぶっていました。原監督が自ら身を引くという可能性も想定し、後任候補が検討されたそうなのですが、ポスト原には巷間伝わる阿部慎之助、高橋由伸、松井秀喜のほかに、工藤公康(60)の名前も挙がったというのです」
言うまでもなく、巨人の監督には「生え抜きのエースか4番打者」という就任条件の不文律がある。工藤氏は2000年にダイエーから巨人にFA移籍。7年間の在籍で53勝(40敗)を挙げ、2度の日本一に貢献したものの、あくまで「外様」である。球団の伝統に反する人事もあり得ると聞いては、このOBが驚くのも無理はなかった。
自称“野球オタク”は短期決戦で無類の強さ
工藤氏が選手、指導者として突出する実績を持っているのは確かだ。
西武からダイエー、巨人、横浜、西武と渡り歩いた実働29年は山本昌、中嶋聡と並ぶプロ野球記録。通算224勝(142敗)を挙げて14度のリーグ優勝、11度の日本一を経験し、「優勝請負人」と呼ばれた。
15年にコーチ経験のないまま就任したソフトバンク監督としても、7年間で3度のリーグ優勝、5度の日本シリーズ制覇を達成。ポストシーズンでは19年のCSファーストステージ第2戦から16連勝、日本シリーズでも18年の第3戦から12連勝という驚異的な勝率をマークし、監督としても「優勝請負人」の名をほしいままにした。
「栗山英樹監督の退任が正式に発表された侍ジャパンの次期監督候補として工藤さんがリストアップされています」と、NPB関係者がこう続ける。
「ポスト栗山にはイチロー、松井(秀喜)の名前も取りざたされていますが、さすがに監督経験がなく日本球界を離れて久しい2人の就任は現実的ではないでしょう。仮に要請しても固辞されるのは目に見えている。監督としても実績を残した工藤さんは、特にポストシーズンで無類の強さを発揮。“野球オタク”を自称し、ソフトバンク監督時代には自宅に6台のモニターを並べて、今では当たり前になったトラックマンなどのデータをいち早く選手起用や継投に活用するなど、データ分析にもたけている。侍ジャパンに大きな影響力を持つソフトバンクの王(貞治)球団会長とも太いパイプがあり、一昨年まで監督を務めていたから現場感にも問題がない。有力候補のひとりであるのは間違いありません」
日本代表の新監督は侍ジャパン強化委員会の選考を経て、今年8月末をメドに決定する。11月のアジアプロ野球チャンピオンシップで初陣を迎えるが、26年の第6回WBCまで活動は限定的。工藤氏は腰を据えたチーム強化が可能な環境を望んでいるとされ、日本代表監督として白羽の矢が立ったとしても、受諾するかは微妙で、「むしろ狙いは原監督の後釜ではないか」(ソフトバンク関係者)という声もある。
6日のオリックス戦に1-2で敗れた巨人は、首位の阪神に9.5ゲーム差の4位に低迷。チーム防御率は12球団で唯一の4点台となる4.05と投手陣の崩壊に歯止めが利かず、ネット上では原監督の用兵、采配に対する批判があふれている。3年契約の2年目ながら、球団周辺では「阿部ヘッドコーチの内部昇格案」「高橋前監督の復帰説」「松井監督待望論」「栗山前日本代表監督のGM招聘計画」などが囁かれ始めるなど、その地位は決して安泰ではない。監督通算17年目を迎えた原監督が「成績に関係なく、今季限りで自ら身を引く」という見方も根強い。
巨人は現在、26勝28敗の借金2。長い球団の歴史でも、3年連続で勝率5割を割った例はない。来季は球団創設90周年の記念イヤー。初の「外様監督」という歴史的人事が行われても不思議ではない。